Sample Company

代表世話人 ご挨拶

日本腎不全外科研究会代表世話人

久木田 和丘(札幌北楡病院)

 透析療法の黎明期には透析を施行すること自体が大テーマであり、慢性腎不全では救命と延命が主体でありました。しかし透析導入が比較的安定してさらなる延命が可能となりましたら、透析患者に対する合併症の治療が問題となり浮上してきました。バスキュラーアクセスとしては外シャントが内シャントに移行してきた約40年前、抗凝固剤はヘパリンのみであり周術期の透析にも問題があり、貧血に対応できるのは鉄剤の投与あるいは蛋白同化ステロイド剤で、活性型ビタミンD製剤もまだ発売されておらず患者活動力は低く、容易な骨折もみられて全身状態は非常に不安定でありました。それでも致命にいたる合併症がみられた場合は手術での対応が必要でした。一般外科では新人の登竜門ともされる急性虫垂炎でも更なる合併症の発生が懸念され深刻な対応がなされたのを記憶しております。
 このようなことから腎不全に合併した外科的疾患に対応し広く見聞を高めるべく当時東京女子医科大学第3外科教授でした故太田和夫先生が、日本腎不全外科研究会を立ち上げられました。第1回の研究会は1992年6月13日に開催されております。当時の透析患者さんは約12万4000人でしたので全身麻酔下の手術も増えつつありました。2016年の患者数は約33万人であり、現在ほぼ日常的に手術が行われているといっても過言ではありません。透析患者の全身状態は新薬剤の開発、透析周辺機器の改良により黎明期と比べると格段に良好となっており、いわゆるMajor surgeryも非腎不全と同様に行われるようになりました。一方、現在の透析患者は長期例の増加、高齢化が顕著で一般的外科手術と同様に高齢者に対する手術が問題として掲げられるようになっております。
 日本腎不全外科研究会前代表世話人の故大平整爾先生は本会代表を2009年からお努めになられましたが、腎不全外科領域が今後一層極めなければならない諸事項を以下のように提言されております。

1 腎不全・透析患者の特異性
2 個々の外科対象疾患における腎不全・透析患者の病態
3 予定手術に対する当該患者の耐術性把握と向上
4 麻酔法の選択
5 不可避の出血傾向・組織の脆弱性・易感染性などを加味した手術手技の選択
6 周術期の薬剤使用法
7 周術期の栄養管理
8 周術期の血液浄化法
9 術後管理特に心肺機能・創傷治癒・メンタルケア
10 エビデンスレベルの高い臨床研究の集積と分析

 今後これらを念頭におき腎不全外科領域の発展に尽力したいと考えます。切に会員の先生方はじめ透析療法に従事しておられる方々へもご協力、ご支援をお願いしたい次第であります。